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トーク&パフォーマンス『MANSAIボレロ』  狂言『唐人相撲』/『MANSAIボレロ』

世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演

世田谷区制85周年

★2017年4月5日(水)15:00〜 於:世田谷パブリックシアター

 ◆『MANSAIボレロ』  野村萬斎

★2017年4月7日(金)19:00〜、4月9日(日)13:00〜 於:世田谷パブリックシアター

 ◆能楽囃子

  大鼓:亀井広忠 小鼓:田邊恭資 太鼓:小寺真佐人 笛:藤田貴寛

 ◆『唐人相撲(とうじんすもう)』

  皇帝:野村万作 相撲取り:野村萬斎 通辞:石田幸雄

  楽人:飯田豪・山際洋一・多和田智大

  武官:月崎晴夫・渡部直也・桜川八好・森永友基・駒井健介・原口紘一

  側近:時田光洋・岡聡史

  唐子:後藤秀眞・後藤叢雲

  文官:前田誠司・井上美明・眞鍋廣志

  楽人:中村修一・小宮正三・梶原睦希

  武官:宇貫貴雄・田口恵介・西澤祐希・浦野真介・神保良介・岡田篤弥

  側近:中村哲朗・野村太一郎

  唐子:林健太郎・梶原充喜

  文官:芋田強・西本直久・高野和

  髭掻:深田博治

  後見:竹山悠樹・内藤連・破石澄元

 ◆『MANSAIボレロ』  野村萬斎

※『MANSAIボレロ

2011年の初演からもう6年経ちましたか。これまで様々な演出で繰り返し上演されてきたボレロですが、世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演という節目の企画にあたり、世田谷に「戻って来たなぁ」という感慨がありました。

SePTと萬斎氏の誕生日である5日のアニバーサリー公演では、白地に金の鳳凰模様の狩衣、白地に銀の飛雲文様の大口、白垂鬘に金の翁烏帽子という、非常に目を惹くいでたちでした。後にポストトークでも話題になった鳳凰の模様は、なるほど言われてみれば伊藤若冲のそれを彷彿とさせるものですが、やや艶消しっぽい金で描かれた鳳凰は主張し過ぎることなく、白地の狩衣に静謐な輝きをもたらしていて、そこに立つ舞い手の崇高さを際立たせていたように思います。

白垂に関してはやはりトークで言及されていて、「あまりにキャラに走り過ぎてしまっていないか」との周囲のダメ出しがあったので7日〜9日の通常公演では地頭にしたとありましたけれど、まぁ確かに鳳凰のイメージからそれこそゲームに登場するようなキャラに見えないこともなかったですがw 何より『MANSAIボレロ』という、今の時点では萬斎氏しか創り出せないこの濃密な舞踏空間の中では、その舞い手自身のオーラ、エネルギーに勝るものは無く、外側の印象が内側から湧き出るものに比べて過剰になるという印象は全くありませんでした。ですので7日〜9日も白垂で良かったのではないかと。

元々は2011年・東日本大震災復興の願いを籠めたところから始まったこの舞、初演の際は演ずる側にも観る側にも震災の記憶が生々しく、その中で生まれたこの作品は思いが先に走ってしまったか、表現そのものはまだ煮え切らない感じで、観ていて意図は分かるのだけれどノッて行けないもどかしさがありました。

日舞の群舞とのコラボ、装束を三様(能装束・紋付袴・洋装)に替えた舞い比べ、折口信夫死者の書』から着想し現代の映像テクノロジーと合体させたパフォーマンスなど、今日までに様々な意味を含み、その都度演出も変えられ沢山の顔を見せて来た『MANSAIボレロ』ですが、今回は一周回って原点に立ち返ったような印象を持ちました。照明やスモークなど、劇場らしいエフェクトはもちろんありましたが(これは2階席からの眺めが抜群でした)それはシンプルなもので、何よりも舞そのものの充実をしっかり受け取ることが出来たのが実に嬉しかったです。

震災復興の祈りは変わることなくして、視点はもっと普遍的なものとなり、不死鳥鳳凰の装束が翻る様は生命賛歌とでも言うべき広さと大きさを感じました。キレキレの動きを見せながら、舞い手の中身はまるでさざ波一つ立たない水面のように穏やかなのだろうという想像も湧きました。舞のベースは『三番叟』ですが、この広さと大きさは『翁』の域に入って来ているのではないかと。あの前のめりなのに煮え切らなかった舞台から6年、もちろんまだまだ発展して行くのでしょうが、このSePT20周年の節目にこの作品が一つの完成を迎えた、そんな印象。初演からこの日までの様々な『MANSAIボレロ』を時系列で繋げて観てみたい。

ポストトークで『MANSAKU(万作)ボレロ』や『YUKI(裕基)ボレロ』の可能性も語られていたようですが、今のところは全く想像もつかず、萬斎氏による唯一無二の作品のように思えてしまうのですけれど、表現というものに横糸を通し、他と手を繋いで更に世界を広げていく構想は萬斎氏がずっと以前から持っているものであり、その姿勢は何らかの形で次世代に継承されて行くべきものであって、この区切りの舞台が新しいスタートになるのかも知れません。

※『唐人相撲』

狂言劇場」シリーズで観て以来の久々の曲。お祝いにふさわしい明るさと賑々しさ。番組表の通り、一般公募も含めて40名近くの大所帯。これだけでもかなりワクワクしますがw SePT名物4本目の橋掛かりを使っての奥ゆきのある演出はやはり楽しい。これまた2階・3階席から観た方が分かりやすいのですがねw 芸術監督ドノが「狂言650年の歴史の中で橋掛かり増やすのは大発明!」と自画自賛するのも無理は無いwww

最大の見せ場である「唐人チームのアクロバット攻撃」はところどころ微妙に危なっかしく見えるのはご愛嬌(怪我だけは困るのでそれが無かったのは良かった)。ちょこっと失敗っぽいところがあってもそれぞれちゃんと回収してたようなw ポストトークで「京劇の人使うのもちょっと違うでしょ」という話があったそうですが同感。唐人チームはちょっとヘッポコで、でも愛してやまない集団であるのが良いw ところどころ危なっかしいとは言いましたけど、流石選ばれた人達、「おおーっ!」となる場面が沢山ありました。あの攻撃バリエーション考えるだけでも楽しそうなんだよなぁw すがぽんさんの壁とかはやっぱりプロだなぁという感じ。

唐子役のチビッ子たちがもう可愛くてですねw 萬斎相撲取りは対戦中はだいたい険しい戦闘向けの表情なのだけど、この唐子達と絡むと途端に表情が緩くなってしまってwww 完全に『にほんごであそぼ』のおぢさんになってしまうのですよwww 唐子が2人で互いの足首を掴んで繋がって、戦車のキャタピラーみたいに前転をするところで、上手く回らないのを見て半笑いで「それいけー!」とばかりに蹴りのポーズしてみたり(もちろん足は当ててませんよ)。稽古場からチビッ子達のテンションが凄かったの、分かる気がするw 石田通辞と一緒の「ホーチャー!ホーチャー!」の客煽りも楽しかった。あんな風にされたらこっちもやらざるを得ないw

万作家の若手の活躍も嬉しい限り。若手が増えた時点で「これは『唐人相撲』のチャンス!」と思いましたものw 若手に負けじと月崎さんが持ち前の身軽さを見せるのも大変よろしいw これ以上の適任は考えられない石田通辞の胡散臭さと舞台の空気をコントロールする技はいつも通りお見事。「セタガヤ」とか「パブリッ…(妙な間w)…ク!」とか、どこまで台本通りでどこまでアドリブなのか分からないw

そして万作皇帝の可愛さw 相撲取りが直接玉体に触れないようにとプロテクターを用意されるも、着けようか着けまいかと逡巡する仕草のなんとも愛らしい(愛らしいw)こと。中国の皇帝と言えば絶対的な権力の上に立つ畏怖の対象というイメージですが、この皇帝は家来たちに愛されてそうだなぁ。だからといって矮小では無い、国を大らかに慈しむ父のよう。負ける側を殊更貶めない作りがお祝いごとにふさわしい曲だなぁと、この皇帝の姿を見るにつくづく思います。

皇帝VS相撲取りの勝負の行方は何やかんやで有耶無耶になって勝手に大団円になりますがwww 帰国を正式に許された相撲取りを見送る唐人達の大行列が曲のめでたさをより引き立てます。うろ覚えなのですが…字幕(9日には舞台の両脇に字幕パネルが掛けられました)から、相撲取りを見送りながら唐人達が謡うのが「再見再見、一路平安(サイチェンサイチェン、イールーピンアー)」だったような。勝負に負けた唐人達の、相撲取りの帰路の安全を祈る気持ちにほっこりとなりましたね。

バックスクリーンや4本の橋掛かりをフルに使い、SePTにおける芸術監督ドノの基本の得意技をふんだんに使った古典、劇場の記念に実にふさわしい舞台でした。